競馬場の”大向こう”
最近は馬券を買ってないので、競馬を見る時は至極大人しく観戦しているが、以前は100円単位の馬券を握り締めてワーワーと無駄な声を張り上げていたものである。
8歳になる不肖の娘は、とにかく競馬場で大きな声を張り上げる。以前はゼッケンの数字を連呼していたが、騎手の名を覚えた最近はもっぱら「騎手名連呼派」だ。
彼女にしても馬券を買っているワケではないから、内田博幸騎手が出ているレースなら決まって「ウチダさん!」を連呼するし、内田騎手が出ていなければ「ペリエさん!」なり「マトバさん!」(南関東限定)なりのセリフを叫ぶことになる。彼女いわく「せっかく競馬場に来ているのだから大声で応援しないのはもったいない」のだそうだ。ひとつの見識ではあるが、小学3年生としての言葉としてはいささかの不安も募る。
「そのまま!」
「差せ!」
「できた!」
競馬場でファンが叫ぶ言葉は様々あるが、それぞれの言葉には発せられるに相応しいタイミングというものがある。
実はこれはなかなか難しいもので、向こう正面から「そのまま!」などと言うのはいくらなんでも気が早いし、かといって明らかに脚色が優性な馬に向かって「差せ!」と叫ぶのも芸がなくむしろシラける。レース展開を読みながらベストの瞬間にベストの言葉を発する技量が求められるわけだ。歌舞伎でいえば「大向こう」の掛け声のようなものか。ただ、歌舞伎と異なり、レース全体を盛り上げるための「声」では決してないのだが…。
以前、知人と連れだって競馬場に出掛けた際、スタートで後手を踏んだ騎手に向かって、その知人はレース中ずっと「ふざけんな!●●!!」と吠え続けていた。そういえば、罵る(ののしる)という字には、なぜか”馬”が含まれている。
とにかく、この知人はレースのたびにあらん限りの声を出し続けて、最終的には財布を涸らしただけでなく、声まで嗄らしてトボトボと競馬場をあとにした。
逆にクール過ぎるのも困る。別の知人と川崎に同行した際のエピソード。
とあるレースで私は8→3の馬単に100円を投じた。レースは直線を向いて3号馬が先頭。3馬身ほど遅れて8号馬が猛然と追い込む展開である。脚色は鋭いが、川崎の短い直線では届くかどうか。微妙な展開である。
「差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ!」
当然のごとく私は吠えた。そのかいあってか、8号馬はゴール寸前で逃げ込みを図る3号馬を捉え、アタマほど交わしたところがゴール。私は拳を突き上げ会心の馬券を誇らしげに知人に見せた。レース中、知人はずっと黙っていたから、きっとハズしたのだろう。私は、年甲斐もなく叫き散らして申し訳ないと詫びた。
そしたらその知人も「取った」という。
へぇ、その割には大人しく見てたね。そりゃおめでと。で、いくら買ってたの?と聞いたところ、帰ってきた答えはなんと「10万です」である。
10万だぁ???!
じゃあ、もっと叫べよ! あの流れでよく涼しい顔で見てられたな!
とツッコむ(当然だ!)が、「いや、あれなら差せると思ったので」と未だ涼しい顔。たかが100円で大騒ぎした私の立場が無いが、さらに立場の無いことに、この夜は彼に全面的にご馳走してもらうこととなった。ちなみに、彼は私よりずっと年下である。
地方の競馬場には、自分の予想通りに決着すると「●●新聞××記者、本命・対抗!!」と”勝ち名乗り”を挙げる予想記者がいる。気持ちはわかるけど、馬単配当300円程度のレースでそれをやられると、周囲はドン引きになる。なんであれ、「掛け声」といものは”場”の雰囲気に調和したものでなければならない。難しいものである。















































最近のコメント