【五十嵐冬樹騎手を巡って③】武豊騎手の”リスク回避”
今回の天皇賞を振り返ると、勝ったメイショウサムソンの武豊騎手は、はじめから“コスモバルクの外”に対するリスクを図った上で、敢えて馬場状態の回復が遅れていたインコースを選択した。
日曜付でも書いたように、この日の芝コースは『重』でスタートしたが、日中の強い陽射しにも助けられ、路面はみるみるうちに乾いていった。ただし武豊騎手の選んだ内ラチから三分どころにかけては見た目にも回復が遅れており、いくら最内枠だったとはいえ、直線で内に進路を取るのは勇気のいる決断だったに違いない。たとえメイショウサムソン自身が多少の道悪を苦にしないタイプだったとはいえ、ジョッキーはテン乗りで、しかもダイワメジャーやアドマイヤムーンを相手に闘っているまさにその瞬間なのである。
コスモバルクはおそらくジャパンカップにも出てくる。
JRAの制裁に抗議を唱えた大方のファンの言い分は「五十嵐も騎乗停止にしろ」というものらしいが、たとえ柴山騎手を超える実効6日間の騎乗停止を言い渡したとしても、ジャパンカップには支障がない。もはやこうなっては、オーナーがその力量を発揮するしか有効な手だては得られないだろう。
逃げて5着に粘った今回の結果にしても、番手で折り合って直線でも真っ直ぐ走らせることができていれば、5着以上の成績を残せたはずだと言われても、特に否定する理由は見つからない。こと競馬に関しては、非常にシビアな決断をされるオーナーだけに、このままで良しとは決して思っていないだろう。コスモバルクは間もなく7歳を迎える。真剣に日本国内のビッグタイトルを狙うなら、躊躇している時間は無いはずだ。
コスモバルク自身が左回りを苦手としているのだから今回の斜行もやむを得ない、とする見解も広まっているようだが、コスモバルクが生涯で最高のパフォーマンスを見せたのは、直線でいったんデルタブルースとポリシーメイカーに交わされながらも、これを差し返して前を行くゼンノロブロイに迫った3歳時のジャパンカップだと思われ、言うまでもなくこのレースは左回りの東京競馬場で行われた。ただ、この時コスモバルクの背の上にいたのは五十嵐冬樹騎手ではなくフランスの名手クリストフ・ルメールであった事実は重い示唆を含んでいる。
コスモバルクについて言えば、右回りの有馬記念や日経賞でも制裁対象となったことがあるのは昨日付でも書いた通り。さらに言えば、コスモバルクには五十嵐冬樹騎手以外にも、ルメールを始め、ボニヤ、安藤勝己、千葉津代士、武幸四郎といった騎手が跨ってきたが、コスモバルクがレースで制裁対象となったのは五十嵐騎手が騎乗したレースに限られる。天皇賞のレースのあとのコメントからも分かるように、現場の騎手たちは「問題なのは人」という認識で一致している。
確かに馬に原因を求めるのは容易い。が、口の利けぬ馬にすべての責任を押しつけてしまうのは公正なやり方とは言えまい。
私自身は、五十嵐騎手が故意にインターフェアを繰り返しているのかどうかを判断するほどの立場にはない。しかし、たとえ故意ではないとしても、馬を安全に御せない騎手が混ざっているとしたら、他の騎手にしてみれば命に関わる大問題だ。少なくとも、周囲の騎手が怒ったことを「大人げない」などとする論調は控えたいところである。
(この項終わり)
| 固定リンク

コメント