ファーロンに振り回されて
昼前に大井競馬場に到着するなり携帯が鳴って、「フランスギャロからドーピングに関する発表があった」と聞かされた。すわ、ディープインパクトに関する新事実の公表か!?と慌てふためいたのは先週の木曜日のこと。
それがなくとも、「内田博幸騎手が目眩を起こして2R以後の騎乗を全てキャンセル」という尋常ならざるニュースを聞いていたので、いささか神経過敏になっていたのも事実。どうせココ(大井)にいても、いたずらに馬券を買って金を溶かすだけなのだからと、情報の確認へと走った。
そしたら、ディープではなくファーロンの話でしたね。なんと言うか、もうどうでもいいやというようなネタに振り回されて、かなりガッカリ。いや、ディープの新ネタだったら嬉しいのかと言われると、決してそうでもないんですけど。
とにかく、フランスの競馬統括機関『フランスギャロ』は、アイルランド出身のキーレン・ファーロン騎手(”キアラン”とか”ファロン”とかいう表記もある)に対して、12月7日から6か月間の騎乗停止処分を下すと発表した。その理由は、7月9日に行われたフランスのGⅠレース・ジャンプラ賞で Ivan Denisovich に騎乗(8着)した際の、薬物検査で陽性反応が出たことによる。現在のところ、具体的な薬物の名称などは明らかにされていない。
ファーロンは、1997~99年および2001~03年の6度に渡りイギリスのリーディングジョッキーに輝いた名騎手。日本でも騎乗経験があり、去年のJCではウィジャボードと共に来日している。また、2001年の阪神ジュベナイルフィリーズでは9番人気のアローキャリーで2着して、大波乱の片棒を担いだことはまだ記憶に新しい。日本国内での成績はちょうど150戦して12勝。重賞勝ちはない。
1996年に名門ヘンリー・セシル厩舎の主戦騎手に抜擢されると、その後、マイケル・スタウト厩舎の主戦を経て、現在はエイダン・オブライエン厩舎と騎乗契約を結んでいる。ダービーを3勝しているほか、オークス、2000ギニー、1000ギニーを4勝ずつ、さらに愛ダービーや、凱旋門賞、キングジョージなど、獲得したビッグタイトルを列記するには、とても字数が足りない。要するに歴史的名騎手なのである。
しかし、そうした数々の栄光とは裏腹に、競馬サークルにおける彼の名声が上がることは無かった。彼の周囲には、あまりにゴシップネタが蔓延し過ぎているのである。
1994年に、レース後に他の騎手を馬上から引きずり降ろした上で、暴行を加えたとして騎乗停止処分を受けたのを手始めに、1999年には契約関係にあったヘンリー・セシル調教師の妻・ナタリーとの不倫関係が報じられ、ヘンリー・セシル厩舎との電撃的な契約解除が話題をさらった。そして、2002年にアルコール依存症であることが新聞で報じられたあたりから、単なる”ゴシップ”では済まされないような問題が彼の周囲で囁かれ始める。
今回の薬物問題が明らかになるちょうど一週間前の木曜日の朝。東京競馬場でウィジャボードの調教を見ながら、私はヘレンさんに「去年と比べてどうか?」と尋ねた。
「馬の調子は調教師に聞かなければ分からないけど」と彼女は前置きした上で、「でも騎手が変わったのはベリーグッド。もし去年と同じ騎手だったとしたら、私は今年のJCを見に来なかったでしょう」と笑みを浮かべながら、しかし冗談とは思えぬ口調で答えた。
たったひとりのイギリス人記者が漏らした感想ではあるが、彼女と同じような思いを抱いているイギリスの競馬ファン・関係者は、決して少なくないのだろうと思う。決定的だったのは、2004年に発覚して、イギリス競馬界のみならずイギリス全土を揺るがした八百長疑惑だ。
(明日付に続く)
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