ゴールから遠く離れて
ひとくちに「競馬の写真」と言っても用途・目的は様々あるが、一般的には背景にゴール板が写し込まれたカットでかつ勝ち馬の脚の形が美しいものが求められる。さらに選別を極めれば「脚の並び」よりも「ゴール板の有無」の方が優先されるケースが多い。「なんでこんなみっともない瞬間の写真をわざわざ使うんだよ!」と訝ることもしばしばだが、「ゴール前写真」と銘打つなら、ゴール板は必須アイテムなのかもしれない。ともあれクライアントがゴール板にこだわる以上は、現場のカメラマンもゴール板に執着せざるを得なくなってくる。
ゴール板と勝ち馬とを一緒に写し込むには、ゴール板に近いところで撮る必要があるのは言うまでもない。
だが、そのようなポジションは限られており、勢い場所取りは熾烈を極める。特にGⅠレース開催日などは普段競馬場に来ないようなTVクルーや一般雑誌のカメラマンでごった返すので皆殺気立っており、場所取りだけでグッタリ疲れてしまうこともある。そんなことに神経を使うのはどう考えても時間と労力の無駄なので、最近ではこの“場所取り祭り”に参加することは控えるようにしていたが、昨日付けで書いたような事情から今後しばらくは”祭り”に参加する必要すら無くなってしまったことになる。
ちなみに、以前はこんなことはなかった。
基本的に場所取りは早い者勝ちで、本人の努力次第で良いポジションが確保できたのはそう遠い過去の話ではない。私の記憶違いでなければ、マヤノトップガンが勝った有馬記念はまだそういうルールだった。ただし、明文化されたルールが無いだけに、最低限のマナーや“暗黙の了解”はしっかりと守られていたように思う。
ゴール板の真正面から5人分はJRA専属カメラマンのエリアで、ココはGallopの●●さん、あそこはブックの■■さん、と言った具合。マナーを知らぬ新参者がいれば、ちゃんと注意する親方格のカメラマンがいたし、見知ったカメラマンが何かの事情で遅れてくれば、誰かが号令をかけて5センチずつでも詰め合ってポジションを譲ってあげたものである。
ところが今はJRAによってカメラマン一人一人が細かく格付けされ、それぞれの撮影場所は原則この“格”によって配分されている。「格差社会」特有の現象なのか、カメラマン同士で場所を融通し合うという光景もあまり見かけなくなったし、マナーを知らぬカメラマンを注意する親方も今はいない。マナー違反を咎めるならば、その旨をJRAの職員に告げてコトを荒立てる必要がある。
ちなみに今週までの私自身の格は”最低ランク”だった。そして来週からは”ランク外”となる。
私自身はゴール板に命をかけるほどの仕事をしていたわけではないので、特に昨今のGⅠレースでは、勝負が決したあとの人馬を撮ってばかりだった。首尾よくゴール近くのポジションをゲットした“格上”のカメラマンが、わざわざやって来て、「この位置ですと、今日は(勝利騎手の)ガッツポーズ狙いですか?」なんてイヤミを言ってくるのにもすっかり慣れていた。
でも、そういう たとえばガッツポーズ狙いの 側面があることはこちらとしても否定しない。勝負は終わっても、馬はまだ走り続けているのだし、勝利騎手の興奮はゴール板を過ぎた後にやってくる。その日いちばんの感動は、ゴールの瞬間ではない他の一瞬に訪れないとも限らないわけだ。極端な話、負けた馬が主役のレースだってある。だらこそ「どこで撮るか」ということにこだわるよりは、「何を撮るか」という原則的な事柄に神経を集中させるべきなのだろう。
(明日付に続く)

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